山形人なら忘れられないふるさとの味
国山形の冬の食卓に欠かせないものとして、青菜漬があげられます。独特の辛みと茎のカリカリとした歯ごたえが特徴の青菜漬を、新米の炊きたてご飯と一緒に頂く幸せは、いつの時代にもふるさとの味の代表格といえるものです。日本には、在来種として高菜がありましたが、もともと清国青菜といわれる青菜が明治38年に中国より日本に移入され、同41年、奈良県から山形県に入ったのが始まりとされています。県内陸部を中心に栽培・生産され、種子は他との交配を防ぐために飛島で採取されています。
青菜の正式名称は山形青菜で、アブラナ科の野菜です。葉の幅が広く、茎が厚くて柔らかいのが特徴。おおよそ秋風が吹き始める8月下旬から9月下旬頃に種まきされ、約2ヶ月の栽培期間を得て、11月上旬から収穫が始まります。収穫後、半日くらい陰干し、水洗いした後、さらに2〜3日陰干して、しんなりしたところで塩漬にしていきます。役ヶ月ほどで青菜漬が出来上がります。緑色が目にも鮮やかなこの新漬にはピリッとした辛みがあり、地方によっては「からし菜」と呼ぶところもあります。
さらに厳冬の中で静かに育まれ、次第に青菜はべっこう色に変わり、一層味わい深く熟成していきます。また、青菜漬は地域によっては塩だけでなく、ザラメ砂糖や醤油、味噌、コンブなどとも漬けられ、各家庭の味として伝わってます。青菜はそのままで美味なのはもちろん、刻んでごま油と炒めたものをチャーハンの具にしたり、また納豆と混ぜたり、海苔の代わりに巻き寿司、おにぎりにしてもおいしく頂けます。青菜はさまざまな調理に利用できる雪国山形を代表する漬物として親しまれているのです。

 

青菜を洗う姿は山形の風物詩

 
    大切に育てられた庄内の箱入り娘
海川の清流が流れ、湯野浜、湯田川とあわせて、庄内三楽郷といわれたあつみ温泉。その山間の集落にある一霞地区があつみかぶの原産地として知られています。特に、あつみかぶは焼畑農法でつくられていますが、この農法は、もっとも原始的な農法といわれ、約400年もの間継承されつづけてきました。半夏生が花咲く7月上旬、山林の草を刈取り、数週間感想させ、無風の日を選び火を入れます。この灰だけがあつみかぶの肥料となるという徹底した自然農法で、一切、農薬や化学療法は使っていません。
そしてまだ灰の熱い間に種を蒔き、農機具などの道具を使わず、木の枝でたたくだけという独特なやり方も古来から伝わってきた通りに大切に守り続けています。10月中旬から雪の降るまでが収穫期です。かぶ畑は水はけをよくするために急斜面を選んで種が蒔かれています。そんな急斜面の畑から一つひとつ丁寧に手作業で収穫するのも一苦労。しかし、村人たちは、その手間隙を惜しまずにかぶを慈しみ、育て、そして収穫してきました。
11月から12月、収穫したかぶを塩で下漬けしたあとに、酢と砂糖で2週間漬け込んで完成となります。自然農法で育まれるあつみかぶは、きめ細やかな肉質でふっくら。漬け込むと、純白の中身まで外側の色鮮やかな濃い赤紫色になります。口あたりといい、歯ざわりといい、お酒に、ご飯にと相性抜群。そのさわやかな甘酸っぱさは、箸を休める暇がありません。
以前は、味噌で漬けた「アバ漬」としても、地区の人々から愛されてきさんさんたあつみかぶ。江戸時代には、藩主も好まれたという記録が残り、徳川将軍にまで献上したといわれています。庄内を代表する冬の味覚の決定版です。
急斜面での重労働が守る伝統の味
(日本経済新聞社提供)

 
       はちきれそうな太陽の恵みを食卓に
形の冬の漬物の代表が青菜だとすれば、夏の代表格はなんといってもなすでしょう。サンサンと照りつける太陽の光が大好きな茄子は、夏の食卓に欠かせません。一口茄子は直径3センチほどでごろんと丸く、口にしたときパリッとしたほどよい固さがあることが特徴です。山形には一口茄子の主な産地が二つあります。その一つは米沢で、地名にちなんで「窪田茄子」と呼ばれます。上杉家が米沢に移ってきた折に、窪田家中に勤めた藩士が広めたのが始まりといわれ、英主として名高いかの上杉鷹山公が栽培したとも伝えられています。一方、庄内地方の一口茄子も知名にちなんで「民田茄子」と呼ばれています。俳聖松尾芭蕉が「奥の細道」の旅の途中、酒井藩士長山重行邸で、「めずらしさや、山をいで羽の 初茄子」と句に詠んだのは有名な話です。今から300年以上も前に芭蕉が堪能したであろう、民田茄子の瑞々しいおいしさと、庄内地方の田園を吹き渡るさわやかな初夏の風は、今も変わることはありません。どちらも塩漬けにしたものは鮮やかな紫色が美しく、噛んだときのパリッっとした食感が絶妙。他にもからし漬、醤油漬など、さまざまな漬物として夏の食卓を彩ります。ご飯に良し、お酒に良し。一口茄子は、現代においても、旬を感じさせてくれる一品です
 
山形の猛暑がおいしい茄子を育てます

 

    生活の知恵から生まれたおふくろの味
しい気候風土の中で、山形では冬の保存食の一つとして漬物がつくられてきました。なかでも特産の青菜漬は、ぱりっとした歯ごたえのある茎の部分が好まれるために、葉の部分が残り、それを利用したのがこのおみ漬です。
かつては、この葉の部分を捨てていたこともあり、それを見ていた近江商人がもったいないと漬物にしたのが、おみ漬の始まりと伝えられています。
近江商人とは近江国(滋賀県)出身の商人のこと。江戸時代、近江特産の蚊帳、呉服などを地方に送り、さらに山形からは青苧や紅花、漆などの産物を江戸や京都、大阪に回していました。近江漬(おうみづけ)が転化して呼ばれるようになったおみ漬は、大根、人参、などの野菜と刻んだ青菜を一緒に漬け込むもので、あっさりとした味わいが持ち味です。すべての材料がそろったところで細かく刻み、塩をふりかけ、それを手もみして醤油を加え、1週間程度すると食べごろになります。そのさっぱりとした味わいは、青菜だけの青菜漬とはまた異なり、彩りや歯ごたえも加わって、豊かに食卓を彩ってくれます。同じ材料を使うのに、なぜか家庭の数だけその味わいは変わってくる漬物。雪深い山形では、こうして知恵を働かせ、母から子へ脈々とそのぬくもりの味が伝えられてきました。そんな愛情たっぷりの漬け物は、おふくろの味として、全国へ発信されています。

おみ漬というレパートリーも青菜の魅力